違法な海賊版サイト「漫画村」が姿を消して以降、その後継を狙う日本語の海賊版サイトはいくつか現れてはいましたが、短期間でサイトを閉鎖したり、漫画村と違って取り扱う本の数が少ないことなどから、漫画村の後継を求める人々にとっては不満足な状況が続いていました。
これらの後継とされるサイトで私が発見したものでは「まんがタウン」「mangasmap」「まんが郷」などがあり、これらはすべて何らかの理由から短期間で閉鎖しています。
9月下旬に現れたサイト「漫画塔」もそのひとつで、漫画村と同様にサイト上には違法にアップロードされた漫画雑誌や単行本であふれかえっており、その数は1.6万冊にものぼっていました。
今月には公式のTwitterアカウントも開設され、自らが漫画村の意思を受け継ぐ者と言わんばかりにサイトの宣伝を行っていました。画像の文やツイートを見ていくと、運営者はどうやら日本語が得意ではなさそうです。
URL: https://twitter.com/Mangatawa2 (アーカイブ)
私は5日に漫画塔の存在をTwitterで知りました。漫画塔は開設直後で知名度はほとんどなく、サイト自体や運営者に関する情報も調べが進んでいない現状で不用意に名前を出すことは宣伝にしかならないと思い、名前は伏せつつもその存在についてツイートしました。
—
漫画塔が新たな脅威になるか動向を注視していたところ、9日、Yahoo!ニュース(個人)に漫画塔についての記事が掲載されました。
漫画村復活か?違法海賊版サイト「漫画塔」が公開される(大元隆志) – 個人 – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/ohmototakashi/20181009-00099788/
こちらの記事について一部では批判的な意見もみられますが、私は漫画塔が閉鎖した今となっては思うことは特にありません。しかし、これをきっかけに爆発的に名が知れ渡り、またフジテレビ、AbemaTVなど他のメディアが漫画塔を後継者として取り上げ始めたことは確かです。同時に、漫画塔のTwitterアカウントも活動を再開しました。メディアの取材に対しても返答していますが、内容を見るとやはり日本人ではないようです。
https://twitter.com/Mangatawa2/status/1049507457872084993 (アーカイブ)
ところが、爆発的なアクセスの増加からかサイトは閲覧できない状態が頻発し、9日の22時ごろには mangatawa.net のAレコードが消去され、そのあとすぐの22時30分ごろに運営者はTwitterで永久閉鎖を宣言、サイト上にも「永久閉鎖された」とだけメッセージを残してサイトは閉鎖され、公式のTwitterアカウントも削除されました。
https://twitter.com/Mangatawa2 (アーカイブ)
—
漫画塔のサイト構成
漫画塔のサイトは、漫画村の村長直伝とも言える防弾ホスティングサービスと匿名ドメインレジストラ、おなじみのCloudflareで構成されていました。使用されていたプロバイダーは以下のとおりです。
- Cloudflare(WAF & CDN)
- Njalla(ドメインレジストラ)
- RackEnd(メインサーバー)
- WebCare360(画像サーバー)
CloudflareでサーバーのIPアドレスは隠蔽されていましたが、使われていたものは以下の2つです。
全てを防弾とオフショアで揃えてくることにもはや驚きはありません。
—
漫画塔の運営者は誰か?
このように、漫画塔は防弾・匿名・オフショアのホスティングサービスでサイトが運営されていることから、WHOISなどの情報から運営者の素性を調べることはかなり困難であると当初は考えていました。
しかし、スイスにある漫画塔のサーバーを調べていた私の仲間が、運営者個人を特定可能なある重要な情報を教えてくれました。それは運営者が誤って保管していた漫画塔のソースコードなどが含まれた、分散型バージョン管理システムGitのデータでした。この中にはPHPフレームワークLaravelの環境設定ファイルおよびそのクレデンシャル情報も含まれていました。なお、これらの情報はすべて合法的に入手したものです。
さらに興味深いことに、Gitのコミットログ(変更履歴のメモ)に作者の本名とメールアドレスが残されていました。
fetch元のリモートリポジトリには以下のURLが指定されていました。
https://*****-dev1@bitbucket[.]org/jptube/mangascript.git
ログが直近(10月8日)であることや、リモートリポジトリのURLの文字列もこの人物に関連していることから、私はこの人物が漫画塔の管理者であると確信しました。
この人物について調べていくと、29歳のアルメニア人であることがわかりました。彼のウェブサイトの自己紹介によるとフリーランスのウェブ開発者で、漫画塔で使われていたPHPやLaravelも得意としているようです。
彼になりすましたり、あるいは架空の人物を作り上げてサイトを運営していた可能性も考えられますが、その可能性は低いと考えています。
1. Gitのコミットログにアルメニア人Aの氏名とメールアドレス(なりすませる)
2. リモートリポジトリにAのIDが含まれたBitbucketのリポジトリ(なりすませる)
3. 1. のメールアドレスでBitbucketに登録されている(画像、なりすませない)
4. 人物Aのホームページがある(架空の人物の可能性はある)— Cheena(ちーな) (@cheenanet) 2018年10月12日
以上の点から、この人物へのなりすまし、ないしは架空の人物の可能性は低いと考えられる。
— Cheena(ちーな) (@cheenanet) 2018年10月12日
—
漫画塔が閉鎖した理由については分かっていません。私が彼を特定したのはサイトが閉鎖されてからですので、発覚を恐れて閉鎖したとは考えにくいです。おそらくは、想定外の大量のアクセスに対応できず運営を断念したか、Gitのデータを入手したことに気づいたかのどちらかだと思います。どちらにせよ、とあるアルメニア人の抱いた儚い夢はついえることになりました。
最近では漫画村の契約者情報がCloudflareから開示されたようで、そちらの進展も気になっています。
それでは。