昨年に「漫画村」の問題が深刻化してから、同年4月に政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」と題し、海賊版サイトへの対策としてサイトへのアクセス制限の実施(ブロッキング)を主とした案を取りまとめました。

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このブロッキングについては憲法の「通信の秘密」に反するなど様々な問題があり、今年1月に法制化は断念されました(産経新聞)。その後、違法ダウンロードの対象を漫画を含むすべての著作物に拡大するとともに「リーチサイト」の規制も盛り込まれた著作権法改正案が検討されましたが、こちらも結局、3月13日に政府は著作権法の改正案の提出を見送りました(日経新聞)。

この通りリーチサイト規制は見送られていますが、知的財産戦略本部では引き続き海賊版対策の議論は行われており、ここではリーチサイト規制は法案提出に向けて動きが進んでいるようです(中村伊知哉氏のブログ)。

しかしながらこのリーチサイト規制には、一つ大きな欠陥があるのではないかと私は考えています。本記事では海賊版の現状と、そこからこのリーチサイト規制について考えを述べていきたいと思います。

そもそもリーチサイトとは何であり、なぜこれの規制が検討されているのでしょう。弁護士ドットコムによってリークされた最新の文化庁の説明資料によれば、ネット上における海賊版被害では、自ら海賊版コンテンツを掲載せずにコンテンツがアップロードされたオンラインストレージサイトなどのリンクを掲載する「リーチサイト」と呼ばれる形式のサイトが台頭し、これが深刻な被害を生み出しているとのことで、実際の例では2017年10月に摘発された最大のリーチサイト「はるか夢の址」のアクセス数は1億件、被害額は731億円(ともに年間で)とされています(アクセス数の算出はSimilarWebによるもの)。
このサイト以外にも多くのリーチサイトが現在も存在しており、そのうち一番大きい漫画海賊版のリーチサイト「A」は月間訪問者数が約2200万人、日本で約200番目にアクセス数の多い巨大サイトです(こちらもSimilarWeb推計)。

リーチサイト「A」
リーチサイト「A」

リーチサイトのように海賊版コンテンツを直接ではなくリンクを掲載する理由としては、特定のオンラインストレージにおけるダウンロード数に応じた収益の獲得、外部サイトにアップロードすることでストレージや帯域など自サイトのリソースを消費しなくて済むので低コストでサイトが運営できること、自らはコンテンツをアップロードしておらずリンクしているだけという体裁をとることで法的責任の回避を行うなどが挙げられます。

同資料ではリーチサイト(リーチアプリ)の定義は以下のようになっています。
・公衆を侵害コンテンツに殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト・プログラム
・主として公衆による侵害コンテンツの利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト・プログラム

規制対象としては、リーチサイト・アプリを提供・提示する「リーチサイト・アプリ運営者」、リーチサイト・アプリにおいてリンク情報等を提供する「リンク提供者」があり、それぞれ5年、3年以下の懲役となっています。

さらに詳細な内容は同資料を参照いただくとして、これらの説明を見るとリーチサイト対策としてこの規制は妥当なように思えます。しかしながら、冒頭で述べたようにこの改正案には欠陥があります。

リーチサイトと投稿型サイト

ここで少し別の話をしますが、私は長期に渡って悪名高い成年向けコミック・同人誌の海賊版サイト「エックスブックス」(元ドロップブックス、今年4月に閉鎖)について調査を行っていました(関連記事)。このサイトはリーチサイトではなくYouTubeのようなユーザー投稿型のサイトでした。しかしこのサイトが他の投稿型サイトと決定的に違った点は、記事で書いたようにユーザー投稿型を装って運営者自身がコンテンツをアップロードしていたことです。

エックスブックス
エックスブックス

前出の資料を読む限りでは、今回のリーチサイト規制にはこのような投稿型サイトは視野に入っていないのではないかという感じがします。上記のリーチサイトの定義は、厳密には第113条第2項第1号の

当該ウェブサイト等において、侵害著作物等に係る送信元識別符号(侵害送信元識別符号)の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等

また、

当該ウェブサイト等において提供される侵害送信元識別符号の数、当該数が当該ウェブサイト等において提供される送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等

となっています。

これを分かりやすくすると、前者はリーチサイト運営者自身がブログ形式で海賊版コンテンツのリンク(侵害送信元識別符号)を掲載し、その利用を促したり強調したりすることで海賊版に誘導しているサイトのことを示しており、後者は海賊版コンテンツのリンクの数やその割合、その他の状況から著作物の侵害のために用いられていると判断しうるサイトを示しています。上記リーチサイト「A」は前者、「はるか夢の址」は後者にあたるでしょう。

リンクを放置する行為への罰則についても以下のように定められています(第113条第3項)。

侵害著作物等利用容易化ウェブサイト(プログラム)等への公衆への提示を行っている者が、当該ウェブサイト(プログラム)等において他人による侵害著作物等利用容易化に係る送信元識別符号等の提供が行われていることを知っている場合であって、かつ、当該送信元識別符号等に係る著作物等が侵害著作物等であることを知っている場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合において、当該侵害著作物等利用容易化を防止する措置を講ずることが技術的に可能であるにもかカらず当該措置を講じない行為は、当該侵害著作物等に係る著作物、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。

この条文では、どれも「リンク(侵害送信元識別符号)」がメインになっています。リーチサイトの規制法案なので当たり前かもしれませんが、こうなるとエックスブックスのようなユーザー投稿型を装ったサイトはリーチサイトではないという理解でよいのでしょうか。
もしそうであるならば、この改正案で画期的な「リンクを放置する行為に罰則を課す」という点についても、リーチサイトでないため適用されないということになってしまいます。

さらに言えば、リーチサイトが投稿型サイトに鞍替えした場合はどうなるのでしょうか?リーチサイトにとってはリーチサイト運営およびリンク放置行為による罰則が適用されなくなるという大きなメリットがあります。リーチサイトの定義「当該ウェブサイト等において提供される侵害送信元識別符号の数、またその割合、またその他の状況」についても関係ありません。
ここはよく理解してませんが、おそらくほかのユーザー投稿型サイトと同様にプロバイダ責任制限法が適用されるのではないかと思います。

これで本当に対策になるのかどうか、疑問に思ってしまいます。

オチがつけにくくて困っていますが、一方で、この規制により既存のリーチサイトすべてがユーザー投稿型に鞍替えするということはないと思っています。なぜなら既存のリーチサイトにはブログサイトも多く、投稿型サイトを構築するほどのスキルは運営者にないだろうからです。

結局のところ、リーチサイト規制が法制化することに私が文句が言いたいわけではありません。はるか夢の址のメンバーが摘発された時点で、現行法下でも摘発はできるが、法律として明文化しておきたい狙いがあるのだと思います。

しかし、これで対策になるかというとそうではありません。繰り返すようですがリーチサイトは投稿型サイトに鞍替えすることでこの規制を逃れることが可能になります。そしてもっとも効果的な手段は法執行機関による摘発でしょう。

柄でもないことを書いてみました。最近は少し時間が欲しい感じです。近々デカいことやれたらいいと思ってます。

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8件のコメント

  1. 感謝!!!!ありがとうございます!!!!

  2. はるか夢の址は厳密にはリーチサイトではなくて投稿型だったのですが…まぁ主にロダを介していたのでそう認知されているのは良いとして、リーチサイトは現行法では対処できない(リンクを掲載する行為が違法ではない)のに対し、仰る投稿型サイトは現行法でも十分に対処が可能ですよね?
    普通に公衆送信権の侵害で10年以下の懲役かと。
    これらが摘発されないのは、単純に警察がまともに機能していないからです。割と高い確率で運営者が海外在住ですから。

    1. 記事の書き方がまぎらわしいかもしれません。はるかは「リンクの」投稿型であって、改正案ではこれもリーチサイトとして扱うことになると思われます。
      そのうえで、リンク投稿型サイトはリーチサイトとして扱われ監督不行届などの場合に処罰される(第113条第3項)ものの、ファイルの投稿型サイトは改正案にある「侵害送信元識別符号」と関連しないため、改正案は適用されないのではないかという意見です。

      また、記事であるように現行法下でのリーチサイト対処は、はるかという前例がある以上現行法で(侵害著作物の利用を促していたはるか特有の事情もありますが)対処できると考えており、エックスブックスのようなユーザー投稿型を装ったサイトでは、それを装っているかどうかの判断が不可能なため運営者の責任追及は不可能と思われます。

  3. すみません、私も書き方が少し悪かったようです。
    まず、はるか夢の址については通例(まぁnyとかですね)と同様、公衆送信権の侵害で摘発されており、投稿を行っていない運営者については刑法60条(共謀罪)の適応です。
    投稿型(フリーブックス等はフォーム自体が張りぼてでしたが)サイトについては、そもそもがはるか夢の址と同様に共謀が適応されますので、より量刑の重い方で対処されるものと思われます。
    なお、これについてははるか夢の址以前にも類例が存在しているとの事でした。

    と、長々とお付き合い頂いて恐縮なのですが、私は一番の問題がそもそもこの手のサイトを運営している人間の大多数が海外在住である事と考えております。
    上述の記事で紹介されている某サイトについても、海外運用な上に管理人が大陸の方です。
    はるか夢の址の件の時もそうでしたが、当局は海外在住の人間に対してあまりにも無力です。外国籍であるのみならず、日本国籍であっても海外にいた人間は摘発される事がありませんでしたから。

    1. はるかの問題はそもそもリンクではなく、アップロードでの共謀共同正犯?ということですね。理解が足りていませんでした。
      ただ、YouTubeなどのサイトと比較した場合にどの点で共謀と判断するのかまだいまいち分かりません。それはケースバイケースなんでしょうか。

      海外を拠点にしていることで問題が解決しない点については同意です。

  4. かなり前の話ですが投稿型のメガアップロードが著作権侵害で逮捕されてましたよね?
    FBIなので日本の法律とはまた違うのかもしれませんが

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